梨は秋から夏の果物に

幸水から始まった梨の出荷はほぼ終わり、「愛宕」や「新雪」などの特別に晩生の梨を残すのみとなりました。
まだ全体の正確な数字は公示されていませんが、白井市の収穫量は不作だった昨年の110%以上に挽回したようです。

一方で当初の予想どおり収穫は全体的に前倒しとなり、今年は中央選果場での新高の最終出荷が9/20。過去一番早い稼働終了だそうです。
10年前までは10月初まで新高があるというのが普通でしたが、木下街道沿いの直売所も9月末には概ね本年の営業を終了していました。
SNSなどでは「お彼岸に馴染みの直売所に行ったら、もう営業終了していてびっくりした」という声も散見されました。
梨の収穫時期は、今後も気候変動に伴い、7月末~9月中旬が旬というかたちになるかもしれません。全国的に梨は秋の果物として取り扱われますが、もう完全に夏の果物ですね。

温暖化で秋の仕事がなくなる?

収穫が早く終わってホッと一息の梨農家さんが多いですが、じつは意外な悩みが…。
なんと温暖化が進むことで、やること(作業)がなくなってしまうそうです(汗)。
「収穫が早く終わったから本来は秋にやる作業も早く出来た。でも冬の仕事は冬にしかできないんだ」
と、ぼやくある梨農家さん。どういうことなのでしょう??

「仕事は前倒しになったんだけど、温かいと落葉が進まないんだよ。葉が沢山あると剪定は始められない。だからやることがなくなっちゃうわけ」
梨の木が真冬でも寒さで枯れず、春に光合成をする葉がなくても花が咲いたり新芽が吹いたりできるのは、秋に葉が養分を蓄えている(これを「貯蔵養分」といいます)ため。
貯蔵養分が不足すると、来春に花や新芽の状態が悪くなってしまいます。
↓の図が従来の流れですが、少し変わりつつあるようです。


橋本梨園様ホームページより引用)

「10年前くらいまでは11月中旬には大体落ちていたんだけどな。剪定のスタートが遅くなるわりに、最近は開花が早いでしょ。剪定は花が咲くまでに終わらせなきゃいけないから、今は余裕あるけど冬は大変になっちゃったよ」。

なるほど…11月上旬の梨の葉はまだ青々としています。ゆっくり休めて良いじゃないかと思いましたが、そのぶん剪定できる期間が短くなってしまったんですね。

肥料散布は秋→冬に

これまで秋に行われていた施肥(肥料を与える作業)も、今は冬に与えるようになってきているそうです。
この時期に使われている有機質の肥料は、土壌微生物が分解することで、春から効果を発揮します。気温が低くなると微生物たちは活動が停滞するため、秋に肥料を撒いても効果が期待できないのです。

しかし近年は、秋の気温が高いので土壌微生物の活動が停滞せず、春を待たずに肥料分が効き始めてしまいます。すると梨の木はそれを吸収してしまい、春と勘違いして落葉がしにくくなったり、新芽が吹いてしまったり、寒さに弱くなってしまったりします。
葉が落ちないので剪定の開始はさらに遅くなり、冬の低温で新芽は枯れますし、寒さに弱いと枝が凍死して枯れたりします。

「今は2月に肥料をやるように普及員※や農協も言うんだよ。どんなに早くても落葉後にしてください、って。ますます秋が暇になって、冬忙しくなっちゃうよな」
梨農家さんはちょっと憂鬱そうに話されました。

作業の段取りが変わってくる

新型コロナウイルスの流行で世の中の働き方が変わりましたが、梨作りは気候変動にも合わせた仕方でおこなう必要がありそうです。
「農業はお天気次第。天候が変われば、先代たちがやってきたやり方がそのまま通用しなくなってきている」という農家さんの声も聞かれました。
でも私含め一般の消費者は気づきませんよね…。だからこそ間に入って現状を伝達する仕事も今後重要になってくると思いました。私もその一助になれればいいのですが(汗)。

読者の皆さんも「気候変動が農作物の生育や収穫状況に大きな影響を及ぼす」ということを覚えておいて頂けたらと思います。
農家さんのため、という部分もありますが、ひいては私達の食に直接関わってくることですから。

※普及指導員のこと。農業技術や経営を向上するための支援を専門とする、国家資格をもった都道府県の職員。
【参考リンク】
▼いよいよ今年の梨の収穫が近づいてきました!|しろいのなし|千葉県白井市から美味しい・甘い梨を全国へお届け
http://shiroi-nashi.com/news/p353/

▼貯蔵養分_現代農業用語集 /ルーラル電子図書館
http://lib.ruralnet.or.jp/genno/yougo/gy103.html

▼梨の落葉時期の遅れ/農業温暖化ネット(一社全国農業改良普及支援協会)
https://www.ondanka-net.jp/index.php?category=spot&view=detail&article_id=649

▼(研究成果) 温暖化により増加しているナシ発芽不良の主要因が、「凍害」であることを解明
– 秋冬季の気温上昇に起因、肥料や堆肥の散布時期の変更で発生軽減可能 –/農研機構
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nifts/077298.html

新着情報はこちら
イベント情報はこちら
梨農家さんのインタビューはこちら