ピンチ(摘心)はチャンス?

今年の5月は雨の多い月になりました。実際に降雨量は昨年同月より50mm以上多く、摘果作業がなかなか進まなかったそうです。
いつもなら中旬には皆さん摘果を終えているのですが、今年は連絡しても「まだ摘果終わってないから…」と取材を断られることばかり(汗)。
実際いつもより作業が7~10日程度遅れているという声が多く聞かれました。

不要な枝葉を減らすピンチ(摘心)

摘果がやっと終わったという連絡を受け園地に赴くと、いつもの摘果時とは違う風景がありました。
なんと今年新しく伸びた枝葉(新梢)をハサミでざくざくと切り落としているのです。
園内は切った新梢と葉でびっしり。

「葉っぱって光合成をして果実を大きくする大切な役割を果たしているんじゃないの!?」
そう思って農家さんに聞いてみると意外な答えが返ってきました。

「これはピンチ(摘心)といって余分な新梢を除き、必要な葉に日光が届くようにしているんだ」。

確かに高く上に伸びた枝が茂っているせいで、果実が成っている枝の葉(果そう葉)には太陽の光が当たりづらくなっています。
果実品質アップのためには、その果そう葉の光合成が重要になってきます。だから日当たりをよくするため、日当たりを悪くする新梢はカットしていたわけです。
よく見ると新梢も根こそぎカットしていたわけでなく、下部の4~5枚の葉は残してありました。上部の高く伸びた部分だけを切っていたのですね。

どこもかしこも切っているわけでなく、各枝の先端など必要な部分の新梢は手を付けずに残してありました。このあたりの勘所も剪定同様にプロのテクニックがあるそうです。
ピンチをおこなえば日当たりがよくなって果実が美味しくなります。

また余分な新梢がなくなることで風通しもよくなり、病害虫を防ぐ役割も果たします。
加えてカットしたことで来年果実が成る花芽が出来る可能性も上がるそう。
ピンチはチャンスの宝庫というわけです!

ピンチをしすぎると逆にピンチ

良いことづくめのように聞こえるピンチですが適切におこなわないと樹にストレスを与えてしまいます。

「新梢は果実を成らせる枝になったり、光合成をして栄養分を生産する役割を果たすからね。やり過ぎると来年の収穫量を減らしたり、樹勢を落として樹が枯れることにもなりかねない」。

と農家さんは教えてくれました。なるほど「適量」が大切なようです。
同様に「適期」もあるそうで、枝葉が淡い緑色のうちにピンチは終える必要があるとのこと。

「淡い色のうちはまだ子供の葉っぱで光合成はしていない。今の段階で余分な新梢を取り除くと、そこに使われるはずだった養分が残した新梢に移動する。すると残した新梢が長く伸びたり太ったりして充実してくれるんだ」。

濃い緑色になってから、つまり新梢が十分に育ってしまってからピンチをすると、養分の移動は起きずそのまま切ったぶんだけロスになってしまうそうです。
なので梨農家さんは6月中旬くらいまで終わらせられるよう作業を進める必要があります。

今回は摘果の取材のタイミングを逃したおかげ(?)で、新梢の管理といういつもと違う作業風景を見ることができました。
正直今回の話はなかなかマニアックというか、一般的に知られていない作業だと思いました。
恐らくまだまだ知らない手間暇が他にも沢山あるのでしょうね。

引き続きこのような未だ知られていない作業も引き続き取り上げていきたいと思います。
もちろん取材する私の頭が混乱してピンチに陥らない程度に…失礼(笑)。

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