梨畑を守る防災網

春の作業が一段落

梨の花の満開から一ヶ月が過ぎ、摘果を終えたという梨農家さんの声がちらほら聞こえてきました。とりあえず梨の作業はこれで一段落になります。
収穫時が夏の繁忙期なら、開花から摘果までは春の繁忙期。
限られた時間の中で作業を行わないといけないからです。
花は一品種につき7日前後しか開花しませんし、摘果を早く終わらせなければ果実が大きく育ちません。
かといって慌てて雑に作業をすれば、授粉に失敗してそもそも果実が成りませんし、摘果後に形の悪い果実が残ってしまいます。
「急ぎながら丁寧に」が基本になりますが、やり直しが効かないので気を使いますね(汗)。
とりあえずこれからも管理作業は続きますが、やっと一息つけるそうです。

しかしゴールデンウィーク中は急な雷雨、強風、降雹といった不安定な天候が続きました。
「なかなか気が休まらないのではないか」と尋ねると、「そうだね。でも今は防災網があるからいくらか安心だよ」と皆さん口を揃えておっしゃいます。
防災網とは梨畑をすっぽり覆うように掛かっている白色や青色の網のことです。
白井市にお住まいの方にはお馴染みではないでしょうか。

防災網って何?

防災網はその名のとおり「災害を防ぐ網」です。
ここでいう災害とは、
・強風
・雹
・霜
・害虫、害獣、害鳥
などのことを示します。

梨畑が網に覆われていなければ、これらの被害をダイレクトに受けてしまいます。
特に気候が不安定な春で一番怖いのが「降雹」。
天から落ちてくる氷の礫は、幼い梨の果実や芽吹きたての新芽を傷つけます。
雹に当たった果実は傷がついて商品価値が落ちたり、果肉がえぐれて腐ってしまったりします。これでは開花から休みなく頑張ってきた努力が水の泡です。

実際白井市では1983年7月に大雹害があり、しろいの梨がほぼ全滅してしまったという苦すぎる経験があります。
下の画像は当時の写真です。果実が割れてしまっているのがわかります。

当時はまだ防災網の設置はほとんどされていなかったそうです。
8月の収穫直前の被害だったので、春の被害よりもさらに農家の皆さんはショックだったことでしょう。

防災網はポリエチレン系の材質を用いた細かい網目をしているので、丈夫で雹の礫を通すことはありません。
先述のとおり雹だけでなく、様々な被害から梨の木を守ってくれる。
そんな頼れる存在が防災網なのです。

気候変動の時代だからこそ欠かせない設備

大雹害以降、千葉県や白井市から公的な支援もあったおかげで防災網の普及が進み、梨農家も安心して安定した生産ができるようになりました。
「近年は気候変動の影響で、以前より天候が不安定。いつどんな天災を受けるかわからないので、防災網無しでは気が休まらない」
と、ある農家さんは言います。
実際今春は関東の一部の梨産地では降雹があったそうです。防災網の普及していない産地では手痛いダメージを負ったでしょうし、今後もまだ安心はできなさそうです。

普段何気なく見ていたあの網が、これほど梨の安全と梨生産者の安心を守っていたとは知りませんでした。
あらためて「農業は天候との戦いなのだ」と感じさせられた今回の取材でした。

参考リンク:
摘果 よくわかる!梨の作業シリーズ④(千葉県立農業大学校、千葉県印旛農業事務所、白井市共同制作)

参考文献:
『昭和58年降ヒョウ・暴風雨害の記録(昭和58年7月27日)』白井市役所

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